『地球再生型生活記』四井真治氏×『マネーバイアス』~暮らしの中にある「いのち」と本当の豊かさ~

2026年4月26日、市ヶ谷のDNPプラザにてトークイベントを開催しました。本イベントは、宮慶優子氏(ゆうちゃん)と吉原史郎氏(しろうちゃん)が2025年に翻訳した『マネーバイアス(お金への思い込み)』について、パーマカルチャーデザイナー/地球再生型生活研究家の四井真治氏と盛り上がったことがきっかけになり、ゆうちゃんが四井さんをお声がけしたことから誕生しました。

資本主義を否定するのではなく、「いのち(ライフ)」で「資本主義(ワーク)」を包んでみる。

包むことで、「いのち」に立脚した設備投資が生まれ、経済のめぐりも少しずつ良くなっていくのではないか。

具体的には、四井さんが建築に携わっている「地球のくらし保育園」の取り組みが分かり易いです。企業が蓄積する大量の現預金残高(1980年代比で数倍規模)の行き場として、このような取り組みがひとつの選択肢になるのではないかと考えています。

「ライフ」で「ワーク」を包むという新しい発想から、「いのち」と本当の豊かさも実現される「新しい経済のめぐり」を感じることができます。

このあたりが、ゆうちゃん・しろうちゃん・Junkan-Aidaチームと四井さんの共通認識となり、本イベントの内容が生まれてきました。イベントでは、ゆうちゃんの天真爛漫なモデレーションのもと、四井さんの深い部分が引き出されていきます。

それでは、当日の様子を具体的に見ていきましょう^^

本イベントでは、「いのちとは何か」「本当の豊かさとは何か」を四井さんのお話をもとに、参加者とともに探求しました。さらに、暮らしから生まれる共通体験が、組織や会社の「続く仕組み」につながり得るのか。その可能性についても議論が深まりました。

オープニングトーク

冒頭では、丸善雄松堂株式会社の福島雅孝氏(ふくちゃん)より、この場を開く背景が語られました。「本屋として知を燈してきた自負はある。しかし次の100年、150年を考えると、本を媒体に、学びのコンテンツや場を自らつくりたい。そして、それらの掛け合わせから新しい創発を生み出していきたい」そんな言葉が印象的でした。今日のイベントもまた、別の学びの場と混ざり合い、次の何かへつながっていく。未来への期待とともに、会が静かに立ち上がっていきました。

アイスブレイク

恒例のアイスブレイクは、でじでじさんの進行でスタート。呼びかけられた方向に体を向けるゲームや呼び掛けられた方向と反対に体を向けるゲームを行い、思考より先に身体が反応する感覚を、楽しみながら体験しました。途中には「ジャンプ」など、反対語がすぐに浮かばない動きもあり、会場に小さな戸惑いが起こる場面も。でじでじさんが最後に共有されたのは、「正解はないので、自信を持って動いてほしい」というメッセージでした。このひと言が、その後の対話全体の空気をつくっていたように思います。

第一部 四井さんの「持続可能な暮らし」&取り組み 
『地球再生型生活』から紐解く「いのちの仕組み」〜「散逸構造論」と暮らしでの実践

場はいよいよ第一部のトークセッションへ。四井真治氏からは、ご自身が18年にわたり取り組んできた「地球再生型の暮らし」が、写真とともに紹介されました。

印象的だったことは、「サステナブル=我慢」ではない、という視点です。四井氏が語ったのは、暮らせば暮らすほど環境が整い、豊かになっていく仕組みをつくるという考え方でした。四井氏は2005年の愛知万博で、レストランから出る生ごみや排水を、隣接するガーデンで循環させる仕組みを手がけた経験を起点に、暮らし全体のデザインへと活動を広げてきたといいます。

山梨県北杜市へ移住後は、家族での生活実験として、畑や果樹園づくり、土地の開墾、資源循環の仕組みづくりを積み重ねてきました。その出発点は、中古物件を購入したところからだったといいます。当初は20坪ほどの敷地のうち、ほとんどが雑木林と竹藪で、その開墾は、業者に依頼すれば何百万円もかかる規模の手間と費用が見込まれる環境でした。

しかし四井氏は、1頭のヤギ(キューちゃん)を飼うことで少しずつ開墾を進めていきました。毎日竹を一本伐採し、葉はヤギのキューちゃんの餌にする。残った竹筒は薪の燃料にする。暮らしの営みを循環に組み込みながら手を動かし続けることで、結果として勝手に開墾が進んでいく状態が生まれ、1ヶ月で500㎡ほどを自身の手で開墾できたと語られました。

トークの中では、現代のインフラにも触れられました。現在の私たちの暮らしは、排水は下水へ、ごみは焼却へと、生活から生まれるものを見えない場所へ流す仕組みになっています。そこで四井氏が繰り返し示したのは、暮らしの中には本来、次のような流れがあるということでした。

・固形物が巡って「土をつくる」流れ

・排水が巡って「水を生かす」流れ

これらを分断せず、もう一度つなぎ直すことで、暮らしは、「持続する仕組み」として立ち上がっていく。そんな提案が、具体例とともに語られました。

そして、多くの参加者の心に残ったのが、ヤギのキューちゃんのエピソードです。キューちゃんが亡くなったとき、堆肥小屋に埋めた場所に他の動物が集まり、まるで弔っているように感じたこと。数日後、キューちゃんの周りにはたくさんのウジが湧いたこと。そこでニワトリを放すと、ニワトリがウジを食べ、糞をし、堆肥となり、畑を育て、作物となってまた人へ戻ってきたこと。さらに、ニワトリは卵を産み、その卵を人間も食べることができたこと。

四井氏は、「この一連の循環を通して、いのちは持続する仕組みとして受け継がれていくという感覚が立ち上がり、悲しくなくなった」と語りました。この話は、「自然と共に生きる」という言葉が、ともすると自然と人を別ものと考えてしまっていることにも気づかせてくれます。私たちは自然の外側にいるのではなく、自然の一部である。そしてそこにはいのちの仕組みが巡っている。第一部は、その実感を会場全体で共有する時間となりました。

第二部 「いのちの仕組み」から社会を考える~「いのちの仕組み」から見るコミュニティ、企業~ 「いのち」が宿ることで持続可能となる自己組織化とは?

第二部では、第一部で紹介された暮らしの実践を土台に、話題はより根源的な問いへと進みました。

四井氏が提示したのは、「いのち」とは何か、そしてなぜ続くのかという視点です。散逸構造論(イリア・プリゴジン)、動的平衡というその背景にある考え方にも触れました。混沌の中で秩序が生まれ、秩序が次の秩序を呼ぶようになる、つまり、ポジティブ・フィードバックが自己組織化していく。そうしたプロセスが、いのちや組織の持続する仕組みと深く結びついていることが語られました。単に正しいことをするだけでは足りない。循環し続ける仕組みをつくることが重要なのだ。その指摘が、暮らしの話から社会の話へと自然につながっていったのが印象的でした。

その実例として紹介されたのが、2026年4月に開園した、四井氏が関わる保育園での実践です。園児たちが通えば、食べ物の残りや生ごみが日々生まれる。けれどそれは堆肥となって畑の土や森づくりに還り、やがて畑が育っていく。園児たちが通えば通うほど豊かになる保育園をつくったと語ります。

さらに先生たちは、お遊戯を教えるのではなく、本気で、農作業をし、掃除をし、ご飯を作り、庭の剪定をする。大人が「本気で生きる姿」を日々見せていくのです。今は造園工事を職人さんが進めているそうですが、その真剣な仕事ぶりに、普段は泣き止まない子どもが見入って泣き止むことがあるという。本気の大人を目の前にすると、子どもたちは自然と学ぼうとして、一緒に本気になる。私たちの社会もまた、命の仕組みの延長線上に組み替えていくことが大切。そうしたメッセージが、暮らしの話と社会の話をつなぐ具体例として語られました。

また、参加者からの「東京で暮らしながら、どのようにいのちを考えればよいか」という問いに対して、四井氏はこう投げかけます。特別なことをいきなり始めるより、まずは日々の暮らしの背景(バックグラウンド)に意識を向けること。流れ作業から一歩離れ、背景を捉え直すことが、ポジティブ・フィードバックの起点となる。そんなメッセージが共有されました。

第三部:対談『地球再生型生活記』と企業経営との交差点

第三部では、第二部までの議論を受けて、暮らしの中でいのちを取り戻すことが、企業や組織、コミュニティの持続にどうつながり得るのかを、実践者を交えて深めました。

ゲストとして登壇した有限会社人事・労務の矢萩大輔氏(だいちゃん)は、秋葉神社でのマルシェなど、地域の場づくりの経験を紹介しました。利益を直接の目的にするのではなく、「愛してやまないもの」を媒介に人と人がつながり、物々交換が生まれ、結果として経済も動いていく。そんな、手触りのある循環が語られます。「儲からないはずなのに、なぜだか続く」「続けているうちに、思いがけない出会いが生まれる」。その実感は、第二部で語られた「自己組織化」とも重なり、会場に納得感をもたらしていました。

対談の中で四井氏は、「生命(個としての存在)」と「いのち(持続する仕組み)」を分けて捉える視点にも触れます。企業文化やコミュニティも、理念を掲げるだけでは続かない。共通体験を通じて秩序や文化が育ち、それが受け継がれていくことで続くものになるのではないかと投げかけました。

冒頭で福島氏が語った「学びの場をつくり、掛け合わせから創発を生む」という言葉の通り、暮らし・いのち・組織というテーマが一本の線でつながっていく時間になりました。そして最後は、参加者からの振り返りと、四井さんからのメッセージで、今日の対話がそれぞれの明日へと手渡されていきました。

統括

西澤篤央氏(shaさん)からは、「いのち」を起点に考えると、本来つながるはずのものが次々に見えてくる、という気づきが共有されました。また、視点を変えることでルートが立ち上がり、そこからアイデアが連鎖していく感覚も印象的だったと振り返りました。

最後に

四井氏は最後に、私たち自身がすでに「持続する仕組み」であることを思い出してほしい、と強調しました。そして、つながりや共同体は意図してつくるものではなく、一人ひとり(家族)が自立し、暮らしの中で循環を実践することで、自然に自己組織化していくのだと語ります。 会社や都市の暮らしも同様で、共通体験・共通認識(秩序)が育つと、人はつながり、創発が起こる。生命の秩序に沿った行動がポジティブな循環を生むと締めくくられました。